サーモスの独自性ある製品はどのようにして生まれたのか。 開発担当者が語る、2つの開発ストーリーをご紹介します。

ケータイマグを越える
ケータイマグとはどんな製品か?
魔法びんと人の関係は、2000年代に大きく変わった。一家に1つだった魔法びんを、1人に1つへ。その大きな変化を巻き起こしたのは、サーモスのケータイタンブラー、ケータイマグだ。今回クローズアップするのは2012年に発売し、100万本以上を売り上げたというJNLシリーズ。前作もヒットし、また競合製品が増える中での新製品開発。今ある製品を越えなくては意味がない。課題はいったい何だったのか?開発者の1人、佐々木氏に話を伺った。

開発期間 約1年5ヶ月


このプロジェクトがスタートしたのは2011年の春。テーマは、軽量化・コンパクト化した新しいケータイマグシリーズの開発でした。すでに軽量化の技術は確立していましたから、どのようなカタチにし、どのようなデザインにするかが、私自身に与えられた課題でした。
また、その当時のケータイマグをめぐる市場環境は、サーモスにとってはあまりよい状況ではありませんでした。競合他社とのシェア争いが激化していたのです。このプロジェクトはシェア奪還の起爆剤としての役割もあり、私もそれなりにプレッシャーを感じていました。

新しい技術があるからといって、それをカタチにしただけで製品を買ってくれるほど、消費者は甘くない。サーモスが持つデータの分析、市場調査などをもとに、ユーザーが手に取るポイントを探し続けました。
ヒントになったのは、JMYシリーズへの評価でした。ユーザーは機能性だけでなく、デザインへの高いこだわりを持っていたことが見えてきたんです。たしかに日々持ち歩いたり、オフィスで自席に置くものですから、自分のセンスにフィットするデザインがいい。もちろん機能性がすぐれているのは当然です。新しい軽量ケータイマグには、それにふさわしい色やカタチがあり、ユーザーが手に取りたくなるデザインが絶対にあります。私は外部のデザイナーやチームの仲間といっしょにデザインのあり方を模索していったのです。


デザインをする中で、私にはどうしてもチャレンジしたいことがありました。それは新しい色への挑戦です。ステンレス素材の場合、その特性からいって、色にこだわるのはすごく難しい。また色はその選択ひとつで製品の売れ行きを左右することもありますから、リスクもあります。
それでも私はあきらめませんでした。化粧品やパソコンなど色や質感を重視する製品をつくっているデザイナーの話を聞いたり、自分で調べたりと、今回の製品にふさわしい新色を探し続けたんです。 そして、たどり着いたのが色つきパールを素材にすることでした。これは光が当たる角度によって色合いが変化します。その高級な質感こそ新製品にふさわしいと思いました。
何度も何度も試作を繰り返し、大量生産したときの再現性なども考えた上で、4つの色を選びましたが、とくに思い入れがあるのが、バーガンディという色です。これは「男性に似合うピンク」というテーマから生まれた色で、女性が持っても男性が持ってもいいピンク系の色合いに仕上げることができたと思っています。


今までにないコンパクトなカタチ、今までにない色、今までにない使いやすさ。すべてに妥協せずに完成させたJNLシリーズですから手応えはありました。しかし実際のところ、結果が出るまでは、緊張やプレッシャーがありました。先行販売で実績が出ていたのだけは安心材料でした。
いざ発売になり、自分でも店頭に足を運びました。手にとってもらえているか、売り場がきれいかをチェックし、人の目によく映るように製品を並べ直したりしましたね(笑) 営業から売れていると耳にして、心底安心しました。その後、発売数ヶ月で売上げ100万本達成することができました。
あるとき、SNSで友人のページを見たら、私が関わったとは知らずにこの製品を使ってくれていたんです。それも新しく提案した水色のものでした。これを見たときは、ほんとうにつくって良かったと思いましたね。
